背景白飛ばし撮影、(別称:白バック飛ばし)と形容されるセッティング方法で撮られた商品写真は、ネットショップ向け撮影ではよく見る商品撮影パターンですが、いざ一般の方が、背景を真っ白に飛ばし、バランスの取れた商品写真を完成させようとするには、商品サイズに合わせた撮影背景の準備、またストロボなどの照明機材の知識と、ライティング方法を知っておく必要があります。
ネット情報では、「狭いスペースでも簡単にできる」という撮影テクニック記事もありますが、それはバッグや靴といった比較的撮りやすい商材に限ったことであり、サイズ感や生地の雰囲気を活かした洋服の撮影を背景白飛ばしで行うには、それなりの技術と作業スペースの確保が必要になります。
しかし、背景白飛ばし撮影の基本は単純で、背景と商品、カメラから見た商品、その奥の背景という前後関係での照明の明暗差(コントラスト)を実現できれば、「背景を白く飛ばすだけ」と考えれば誰でもできそうな気がしてしまうのも無理はありません。
被写体と背景の間の光量によるコントラストを作るということは、光をコントロールできなければ、背景は白く飛んでいても、背景から回り込む光によって、商品も白飛びしてしまったりします。
では撮影代行をしている業者であれば、「背景の白飛ばし撮影」で、商品写真を綺麗に撮れるのか?
個人的には、商品撮影を行う上で「基本的なライティング方法」ですので、難しいものではなく、スペースと設備さえあれば、どこの撮影代行先に外注しても綺麗な商品写真に仕上がるはず・・・と、思ってましたが、撤回しますww
連休前にお問い合わせ頂いたネットショップのデータを見て驚きました!
それは、某商品撮影サービスで撮られた「白バック飛ばし」というフォルダーに入り客先に納品されたTシャツの商品画像でした。
ご相談者は、実店舗とECサイトでアパレル商品を扱う企業であり、撮影代行先には「背景を真っ白にして欲しい」とだけ伝えたそうです。
もちろん、お客様の指示ミスはなく、背景を白く飛ばせと言われれば、撮影代行をする側としては、「白バック飛ばし」と理解して作業に入るはずです。
今回は、背景白飛ばし撮影、(白バック飛ばし)を例に挙げ、その目的やメリットを通じて、この撮影方法を考えていきたいと思います。
また、某商品撮影サービスの写真を掲載はできませんが、弊社で再現したNGサンプルもありますので、驚きの納品画像がどんなものだったかに刮目しながら読み進んで頂ければ幸いです。
背景白飛ばし撮影の目的
ネットショップにおいて背景白飛ばし撮影の目的とは何か?
ECサイト向けの商品撮影サービスを利用するお客様が、背景白飛ばし撮影を指示する目的としては、商品の説明画像としての使用とバナー用に画像を加工する目的、そして最近多くなっているのが、アマゾンのメイン画像の背景を真っ白にするという規定、楽天市場の同じような背景処理に関する改定の動きに合わせたいという目的が、目立っています。
背景白飛ばし撮影を昔から紙媒体のカタログ撮影などで行っていた撮影代行業者が、ネットショップ向けでよく使われる「背景白飛ばし撮影」という使用例、またはその言葉の意味に違和感を感じるのは、「切り抜き版」の要素を持ちつつ、そのままでも使える商品写真(角版)としての二刀流を求めている点です。
昔に限ったことではありませんが、商品撮影の分野では、商品画像(プロダクトカット)は、「 切り抜き版 」と「 角版(かくはん) 」に大きく分けられます。
「切り抜き版の撮影」とは、その名の通り、商品部分を切り抜き、加工処理を前提とした撮影、今のネットショップ撮影の「背景白飛ばし画像」に似ていますが、あくまでも製品画像として輪郭や色合いをしっかり出すために商品の回りに細工を施して撮影するので、切り抜かなければ完成しない商品画像です。
対して「角版の撮影」は、切り抜きをせず、余白を含め商品画像を1枚の写真として成立させる撮影です。イメージ写真として考えて頂ければ、この撮影時ではライティングもバリエーションがあります。
背景白飛ばし撮影は、切り抜き版を意味するものではありませんが、ネットショップ用の撮影では、切り抜きも可能な角版撮影という、もう何のこっちゃか分からない曖昧な表現で使われていますww
撮影代行をする業者の中にも「白バック飛ばし」は切り抜き用として紹介していることがありますが、本来は「 切り抜き版 」と「 角版 」という前提があって、ライティング方法として何を選択するかが正解であり、切り抜き用=背景白飛ばし撮影ではないことを補足しておきます。
商品写真の妙に気になる話はさておき、ネットショップ用では二刀流が好まれるので、撮影代行を行う業者として、依頼元の2つの目的を絶妙なバランスで調整するために、「背景白飛ばし撮影」が選択されたとも言えます。
この記事では、「背景白飛ばし撮影」は、そのまま使ってもアマゾンのRGB値255の真っ白背景をクリアする写真、また商品部分を切り抜いて異なる背景色と合成しても馴染みやすい商品写真として話を進めます。
背景白飛ばし撮影によるメリット
何かと面倒そうな背景白飛ばし撮影のメリット。
背景を真っ白にするだけなら、今の時代、撮影の段階で背景を白く飛ばさなくてもフォトショップ等の写真編集ソフトで後から白背景化を実現してしまえばいいのでは?
もちろん、それもOKですw
言ってみれば前章で書いた「切り抜き版」と同じ意味になり、最終画像として「背景が白く抜けていれば良い」という考え方も間違いではありません。
しかし、撮影段階で背景白飛ばし撮影を行うメリットもあります。
まず当然ながら、「切り抜き処理」をせず、そのまま使用したいという作業効率UPのニーズがあること。
そして、背景が真っ白(RGB値255で統一)で撮影されることによって、商品写真の編集時の色の再現性が高いことが挙げられます。
写真編集ソフトで後から背景処理を行うとなると、1商品あたりのカット数も気になるところです。
例えば、1商品あたりで5カット、これが10商品あれば、50カットの背景処理しなければなりません。
撮影代行を行う業者の中には、オプション作業となる切り抜き加工を奨励し、単価UPを狙っているところもありますが、個人的には背景を真っ白にする目的であれば、現場ワークで「背景白飛ばし撮影」を完了した方が、断然お得になりますので、切り抜き加工で実現する背景ホワイト処理は、使用目的に合わせて選ぶべきだと考えます。
また、背景が真っ白ということは、撮影する商品の「白の種類」を表現することができます。
一言で商品カラーが白といっても、数値上で真っ白ということはありません。
商品カラーがホワイト、これが背景の真っ白(RGBがすべて255)に対してどのようなホワイトなのかを判断することもできます。
正確にセッティングされた背景白飛ばし撮影では、商品の陰影を保ったまま背景のみを白く飛ばすことも可能です。
これらの要素がすべて撮影段階で再現されていれば、最終現像時のデスクワークに移行しても正確な商品カラーの再現もできますし、画像加工を行っても馴染みの良い処理が実現できるようになります。
アパレル商品の背景白飛ばし撮影サンプル
いよいよ、冒頭で書きました、某商品撮影サービスが行った、「背景白飛ばし撮影の再現版」をご紹介します。
まずは気になる驚愕の商品写真をじっくり見てみましょう。
商品形状やカラーを再現するため同じ白いTシャツを用意しました。
左側は某撮影代行サービスが撮った「背景白飛ばし撮影」の再現です。
そして右側の画像の赤色の部分は、「白く飛んでいる部分」を表示しています。
確かに白く背景は飛んでいますが、商品の首元、袖口、裾、ボディー前面も白飛びしてしまっています。
何よりも、白いTシャツということは分かりますが、素材感は全く伝わりません。
それでは、この商品がどのような素材感や風合いを持った商品なのかを確認してみましょう。
これは同じ商品、同じ色の商品ですw
商品写真は撮り方によってこんなに差が出てしまうという事例にもなりますが、これが撮影代行を生業とする業者が撮ったと言われたら、沈黙するしかないレベルではないでしょうか?
弊社に相談されたお客様によると、撮影業者の言い訳としては、「背景が真っ白なものに対し、白い商品だから仕方がない」と説明されたそうですが、本当に背景白飛ばし撮影で白い商品は、再現写真と同じ様になってしまうのか?
では、背景白飛ばし撮影で、白い商品を撮った事例として、次の商品画像を御覧ください。
これは弊社で撮影した背景白飛ばしの商品写真です。
先ほど同じ条件にするために、元画像と「白く飛んでいる箇所」を赤で表示する2枚組で掲載します。
更に、同じ白い商品でも素材感の違いが表現できるのかをチェックしてもらいましょう。
トップスの素材感や厚みなども背景白飛ばし撮影でも表現することは可能です。
いや、これだけでは説得力がない!
さらにハードルを上げて、もっと生地の薄い白い商品だと、やっぱりあの撮影業者のTシャツ画像みたいになると思っている方は、こちらの背景白飛ばし撮影で行なった商品写真もご覧くださいww
いかがでしょうか?
透過性の高い白いシャツですが、赤反転された白飛び箇所を確認していただくと、商品部分の白はカラーとして白飛びせずに存在していることが確認できると思います。
きちんとセッティングされた背景白飛ばし撮影で行なった商品画像をフォトショップなどの写真編集ソフトにて、背景をポンと指定すれば、商品の輪郭部分を残しながら、手軽に背景を抜くことができます。
しかし、上記の背景白飛ばし撮影のサンプルは、弊社に特別なスキルがあるのではなく、撮影代行をサービスとして行うスタジオであれば、撮れて当然の基本的な商品画像です。
要は、この程度の商品写真が撮れないのであれば、撮影を受付けてはいけないレベルだということです。
上記のTシャツの失敗例のような画像を消費者に向けて販売するために掲載できるでしょうか?
激安の商品撮影サービスだから仕方がないでは済まされない状況であり、背景白飛ばし撮影は、背景が白くなっていれば成功というものではありませんw
撮影代行業者で差が出る背景白飛ばし撮影
背景を白く飛ばしながら、商品のディテールを一定レベルで保持するには、撮影対象物に合わせたセッティングが必要になります。
なぜNG画像のような商品写真を撮影代行業者が撮ってしまったのか?
検証をしてみて予想できることは、撮影スペース自体が狭い、または撮影機材が揃っていないのではないかと考えました。
小物雑貨程度のサイズ感であれば、ストロボ2灯あれば、ある程度の「背景白飛ばし状態」にすることは可能ですが、洋服や人物撮影サイズで背景白飛ばし撮影をキチンと行うのであれば、最低でもストロボ4灯以上は欲しい所であり、商品自体の立体感を表現するので更に灯数は増やします。
撮影代行先がどのようなライティングパターンを持っているのかを知る方法として、撮影段階で背景白飛ばし撮影に対応する業者なのか、撮影の後処理(切り抜き)で背景を白にする対応なのかで区別することができます。
もちろん撮影代行(写真で勝負)であれば、両方のパターンに柔軟に対応するのが当然ですが、撮影代行業者の中には撮影セッティングが固定されており、撮影の後処理(切り抜き)でしか背景を白くする対応ができないことがあります。
商品画像としての結果だけを見れば、同じ様に感じますが、背景白飛ばしで撮って欲しいだけで、切り抜き加工のオプションが不要なのに追加費用が発生する場合は、依頼元にとって得策ではありません。
特に、アマゾン掲載用の商品写真のために。真っ白な背景で撮った写真が必要なだけという場合は、撮影段階で「背景白飛ばし状態」にする方が、切り抜き加工分の無駄な追加費用を支払わなくて済みます。
そして、同じ「背景白飛ばし撮影」でも撮影代行から納品された画像をチェックするポイントとして、「白い商品の仕上がり」、「黒つぶれ」、「商品の一部が白飛びしていないか」、モデル画像では「顔がテカる」など背景から回り込んでくる光の反射具合で、商品写真としての品質が落ちていないかを確認することも大切です。
「背景白飛ばし撮影」を指示して、上記のような「難のある商品画像」が納品されてしまう原因は、適当にバイトが撮影をしているなど、撮影経験不足によるもの、または撮影スタジオ自体が機材やスペース上の都合で撮れない環境にあると予想されます。
厳しい表現をするのは、「背景白飛ばし撮影」は、撮影代行サービスを行う業者にとって、難しいレベルのセッティングではないからです。
白バック飛ばしはセッティングは単純ですが、手間はかかります。
ですが、商品撮影サービスがその手間を惜しむようになったら、依頼元は撮影報酬を何のために支払うべきなのか分からなくなってしまうます。
「背景白飛ばし撮影」、この1つの撮影方法を取り上げても、撮影代行サービスへの取り組み方の違いが、業者ごと違うのだと感じませんか?